フランチャイズ本部だからといって、立地診断や売上予測は必ず行わなければならないものではありません。
しかし、店舗の出店場所=立地は、業績に非常に大きな影響を及ぼすものです。そのため、加盟希望者はフランチャイズ本部による物件紹介や、出店候補地に対する見立てを期待します。
立地を評価する場合は、店舗のターゲット顧客の来店行動に影響を及ぼす様々な空間情報を体系的に捉える必要があります。その時に必要となるのが3つの視点です。
立地タイプの特徴
立地タイプは、店舗周辺の立地環境や出店する施設の特性等によって区分けすることができます。
立地環境による区分けとしては、駅前、住宅地、商店街、オフィス街、郊外ロードサイド、観光地等があります。
立地タイプ | 特徴・留意点 |
駅前 |
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住宅地 |
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商店街 |
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オフィス街 |
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郊外ロードサイド |
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観光地 |
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また、出店施設の特性による区分けとしては、路面店(単独店)と施設内出店(ショッピングセンター、駅ナカ、病院、公共施設など)に大きく分けられます。路面店(単独店)の場合は、集客を独自にしなければなりませんが店舗運営に関する自由度は高くなります。
一方、施設内出店の場合には、その施設の持つ集客力に頼ることはできますが、取り扱える商品やサービス、営業時間や店舗の看板・内外装、賃貸借契約の条件などにおいて、何らかの制限を受ける可能性は高くなります。
適正商圏の診断
「適正商圏」とは、ターゲット顧客を、その店舗が吸引できる主要な地理的範囲のことであり、適正商圏は商品特性によって異なります。
一般的に、適正商圏の広さは、最寄品(一般に購入する食品等)であれば狭く、買回り品(ファッション衣料や住居商品)であれば広く、専門品として希少性が高まれば更に広くなります。飲食業態では、客単価の高いフルサービスの業態は広く、セルフサービス等で客単価の低い業態は相対的に狭くなります。また、商品特性が同じでも商品やサービスの差別化が図れていたり、より遠くの顧客までをターゲットにした販売促進を行ったりすれば適正商圏は広くなります。
適正商圏は、交通機関や道路条件等の地理的条件によっても変わります。例えば、「店舗までの途中に河川が流れていて橋を渡らなければいけない」「高速道路が通っており、遠回りをしないといけない」など、顧客と店舗の間を隔てるものがあると、それが心理的にも作用し、商圏が分断されることになります。商圏を分断する要素には次のようなものがあります。
- 線路
- 幹線道路
- 高速道路
- 河川
- 池・沼・湖・貯水池等
- 公園・ゴルフ場・駐屯地等の土地を大きく確保する施設
適正商圏は、地理的条件を考慮すると、単純に店舗からの距離で判断するのではなく、各種交通機関や車を使って顧客が何分で来店できるかを計算し、実際の来店までにかかる時間で判断することになります。
例えば、コンビニエンスストアの商圏は、一般的に半径300~500mの範囲とされていますが、実際には徒歩5分・自転車5分・車5分というような設定をしています。
市場規模を理論的に算定する
店舗が吸引しうる主要な地理的範囲(適正商圏)を設定することにより、その商圏において市場規模がどの程度あるのかを理論的に算定することができます。
理論上、市場規模は、ターゲットとなる顧客層の人口・世帯数と購買力(当該商品の支出額)の掛け算で算出できます。
市場規模 = ターゲット顧客層の人口・世帯数 × 購買力
人口・世帯数のデータは該当の区市町村が持っており、区市町村の統計や住民登録を扱う部署で見ることが可能です。多くの区市町村ではホームページにて当該資料を開示しています。
購買力は、総務省が出している家計調査年報を調べることで推計することができます。家計調査年報の1世帯当たりの品目別支出額から、事業会社の商品・サービスに属する支出を確認します。その金額のうち、当該商品やサービスに支出できる部分が購買力になります。
ただし、これらの統計情報は、数年ごとの調査のため、必ずしも最新のデータになっていないため注意してください。
3つの視点による立地の診断方法(面・線・点)
店舗コンセプトがどのような立地に適性があるか見極めることが重要です。
立地は、「商圏(面)」「動線(線)」「地点(点)」の3つ視点で診断することができます。
立地診断で大切なことは、最初から物件(点)にとらわれないことです。面→線→点の順で、マクロからミクロへと立地の空間情報を体系的に捉える必要があります。新築で賃借料も安いなど好条件な物件であったとしても、決して「面」、「線」の視点を忘れてはいけません。
また、「面・線・点」の要素は全ての基準が満たされている必要があります。3つの要素のうち基準を満たしていない要素があっても、それを別の要素でカバーすることはできません。
商圏(面) | 動線(線) | 地点(点) |
商圏の範囲(半径◯km、徒歩・自動車で◯分以内)、商圏人口(店舗に集客できる商圏範囲の人口)、来店する顧客が居住・勤務している地域の特性 | 店舗までの動線や方向(出店候補地への近づきやすさ、駅や施設などから店舗までの経路)、接近性(駅や施設などからの近さ、利便性)、競合店との位置関係 | 候補地や近隣の特性、店頭通行量(店の前をどのような人がどれ位通るのか)、視認性(店舗がはっきり認識できるか)、店舗の構造(出入口や柱、店舗設備などの位置や造り) |
商圏:『面』を診断する
まずは「商圏」の診断です。商圏内に事業が成り立つための市場規模があるか、事業の性格に合ったマーケット特性を持っているかなどマクロの視点で診断します。
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チェック項目 | 情報の収集方法 |
商圏人口・世帯数及び伸び率 | 住民基本台帳・国勢調査 |
人口ターゲット比率(年齢別) | 住民基本台帳・国勢調査 |
昼間人口 | 国勢調査 |
居住形態(持ち家・借家など) | 国勢調査 |
所得水準 | 地域経済総覧(東洋経済新報社) |
家計支出水準 | 家計調査年報 |
貯蓄水準 | 地域経済総覧(東洋経済新報社) |
地元購買率 | 消費購買行動調査(県) |
通勤通学先 | 国勢調査 |
自家用車保有率 | 地域経済総覧(東洋経済新報社) |
動線:『線』を診断する
次に「動線」を診断します。商圏内での候補地の配置に問題がないか、動線に乗っているか、周辺に障害物はないかなどについて実地調査を行います。
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チェック項目 | 情報の収集方法 |
場所のわかりやすさ | 実査・現地ヒアリング |
商圏内の消費者動線の方向 | 地図読み取り・実査 |
中心(マグネット)からの店舗位置 | 地図読み取り・実査 |
動線に対して車線の面する方向(順または逆) | 地図読み取り・実査 |
商圏分断要因(バリア)の存在 | 地図読み取り・実査 |
店前通行量(歩行者・車両)と道路の性格 | 実査・道路交通センサス |
競合店数 | 電話帳・業界リスト・実査 |
競合店と比較した場合の立地の優位性 | 実査 |
他に競合店が出る可能性の有無 | 実査・現地ヒアリング |
地点:『点』を診断する
最後に「地点」を診断します。物件の大きさや形状は事業に適しているか、視認性はよいか、入りやすく出やすいかなどミクロの視点で評価します。
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チェック項目 | 情報の収集方法 |
店前障害物の有無 | 実査 |
視認性 | 実査 |
角地か一面か | 実査 |
間口 | 公図・実査 |
地形 | 公図・実査 |
車のイン・アウトのし易さ | 実査 |
道路との段差 | 実査 |
駐車場の確保(同一敷地に可能か) | 実査 |
立地診断に有効なサービス
これまで商圏分析を行なうには、数十万円以上はする専用のGISソフトウェアや有料のサービスを使う必要がありました。しかし、「jSTAT MAP」という、商圏分析を行なうための無料のインターネットサービスが登場しています。このサービスは、独立行政法人統計センターが運用管理を行っている「政府統計の総合窓口(e-Stat)」にて提供されており無料で利用できます。
また、動線や地点の診断を行う場合には、googleマップの利用も有効です。位置表示や経路検索機能、ストリートビューなどが活用できます。
これらのインターネットサービスを用いることで、効率よく診断を行うことができます。また、実地ではわからない数値情報を得ることもできます。
しかし、これらのサービスに用いられているデータや、マップに掲載されている画像などは、リアルタイムにアップされているものではなく正確性を欠いたものとなります。例えば、夏になると街路樹に葉が生い茂って遠くから看板が見づらくなったり、画像で見るより駐車場の入口が狭くて入店しづらかったりする場合などです。
やはり、「現場」「現物」「現実」の三現主義が大事であり、机上だけではなく、実際に現場で現物を観察して、現実を認識した情報をもとに判断することが重要です。
参考書籍:
フランチャイズ研究会 著「フランチャイズ本部構築ガイドブック」(同友館)
フランチャイズ研究会 著「よくわかる!フランチャイズ入門」(同友館)