フランチャイズビジネスにおけるトラブルへの実務対応例

フランチャイズビジネスにおけるトラブルへの実務対応例

私が副会長をつとめているフランチャイズ研究会では、本部と加盟店間でトラブルが多発する167の場面を想定し、本部が対応すべき事項についてQ&A方式にてまとめた「フランチャイズトラブル回避ガイド」を発刊しました。
本コラムでは、本ガイドブックからピックアップしてポイント解説をします。

本部と加盟者間におけるトラブルの原因

フランチャイズビジネスは、本部と加盟者は法律的にも財務的にも、それぞれが独立した事業体であり、お互いの信頼と協力のもと、同じビジョンに向かって一つの事業を成功へと導いていくべきものです。しかし、現実には、本部と加盟者との間で多くのトラブルが発生しており、訴訟に発展するケースも少なくありません。

フランチャイズビジネス

① 本部と加盟者の対立関係

本部と加盟者は、フランチャイズ契約によって結ばれたビジネスパートナーの関係ではありますが、契約の当事者同士として、互いに対立する関係とも言えます。チェーン品質の維持や統一性を重視する本部と、経営の自由度を求める加盟者の間で軋轢が生じることがあります。

② 本部による無理な営業

1店舗でも多くの加盟店をオープンさせたい本部は、加盟店開発において、無理な営業を行うことがあります。誇大表現された収益モデル、十分な立地診断がされていない店舗物件の紹介、十分な検討期間を設けないまま契約を急がせる行為などです。

③安易な加盟

一方、フランチャイズ加盟さえすれば成功すると考え、十分な情報収集・検討を行わず安易に契約し、本部に依存する加盟者もいます。法人加盟者の中には、既存事業がうまくいかない中で、一発逆転を狙って加盟するものの、既存事業の悪影響がフランチャイズ事業にも及んでしまうこともあります。

④ビジネスモデルの陳腐化

一般的に、フランチャイズ契約は長期に渡るものです。そのため事業を継続する中では、社会・法律・経済など、外部環境の変化は避けられず、本部が作り上げたビジネスモデルが時代に合わなくなってくることもあります。本来、本部は、環境変化に合わせビジネスモデルを変革し、契約内容も見直す必要がありますが、この対応が遅れれば、加盟者とのトラブルへとつながることもあります。

トラブル回避対応事例1|フランチャイズ事業説明会

フランチャイズトラブル回避ガイド Q1より>
集団説明会を開催して当社フランチャイズの概要や損益モデル等の資料を配布しようと思います。注意すべき点を教えてください。

解説

  • 配布する説明資料(加盟案内書)の掲載内容例として、次のようなものが挙げられます。
    業界動向、自社業態・フランチャイズモデルの特徴、本部によるサポート内容、初期投資モデル、損益モデル、開業までのスケジュールなど
  • この中でも、経営数値に関わるもの(初期投資モデル、損益モデルなど)については、その数値モデルが以下の条件を満たす必要があります。
    • 根拠ある事実・合理的な算定方法等に基づいていること
    • その根拠となる事実・算定方法が示されていること
  • また、これらの数値モデルについては、加盟希望者の誤解を生みがちなため、以下のような提示には注意が必要です。
    1. 全店舗の平均売上高より高めの数字を設定する(上手くいっている店舗の数字を採用する)
    2. 初期投資モデルから物件取得費を省く
    3. 損益モデルから賃料・販促費・リース代などを省く
    4. 売上高・原材料費・ロイヤリティ・人件費のみ書いている
  • 2.〜4.については、賃料・販促費・リース代が店舗ごとで様々であることが理由ですが、利益が不当に水増しされることになりますし、投資回収期間にも違いが出ます。このような提示方法を取る場合には、少なくともこれらの費用がかかることを明らかにしておく必要があります。
    記述例:「店舗ごとに異なるため賃料・販促費・リース代は除く」など
  • 加盟希望者へ提示する資料は常に最新の情報が掲載されているよう、計画的に改訂作業を行う必要があります。
  • 加盟希望者へ提示する情報が複数ある場合(WEBサイト、パンフレット、チラシ、FC比較サイトなど)には、それぞれの情報に違いがあったり、矛盾があったりしないよう注意が必要です。

関連キーワード

  • ぎまん的顧客誘引(不十分な情報開示、虚偽・誇大な開示など)
  • 法定開示書面(中小小売商業振興法、フランチャイズ・ガイドライン)
  • 本部による店舗物件の紹介・立地診断・売上予測
  • テリトリー権
  • 事業計画の立案(加盟店の銀行融資の支援)
  • 開業提案書
  • 加盟開発業務の標準化、担当者の教育(特にFC契約書の理解)

トラブル回避対応事例2|フランチャイズ契約の締結

フランチャイズトラブル回避ガイド Q54より>
フランチャイズ契約書の読み合わせの時期及び手順はどのように進めるべきですか。法定開示書面(情報開示書面)についてはどうですか。

解説

    • 契約締結までに、加盟者が自由な意思に基づいて適切に判断できる状況になるように進めることが重要です。
      • 加盟契約前に法定開示書面(情報開示書面)を書面で交付・説明すること
      • 契約締結前に熟考期間をしっかり設けること
      • 加盟者の読みあわせをしっかり行うこと(加盟者から不要と言われても行うこと)
    • 法定開示書面(情報開示書面)は契約書の読み合わせの前にあらかじめ書面で交付し、事前に読んでもらってから説明するようにします。
    • FC契約の内容も秘密情報に当たりますから、FC加盟申し込みがなされてから、FC契約書の読み合わせを行うようにしましょう。また、読み合わせと契約締結(署名捺印)との間には2週間程度の期間(熟慮期間)をおくようにします。
    • 読み合わせ前には、実際の契約書を渡し、事前に契約内容を理解してもらうようにします。その場合は、FC契約書の預かり書を発行するようにします。
    • FC契約書の読み合わせ時は、加盟者が理解できたか項目ごとに確認しながら進めるようにします。読み合わせ終了時に、説明が完了したことを加盟者から意思表示してもらうようにします。
    • FC契約内容のオンライン説明・電子契約について
      • FC契約書の電子契約には特段法令上の制限はありません
      • 法定開示書面(情報開示書面)は電子交付が認められていません(直接の書面交付が必要)
      • オンライン説明の場合、加盟者の反応が見えにくいため、しっかりと声掛けしながら進めるようにします
      • 説明相手や電子契約の相手方が、なりすましでないかを適時確認します
      • 説明内容の記録(録画、署名、やりとりの記録)をとっておきます

関連キーワード

  • 加盟審査
  • 加盟者側の専門家の同席
  • 法定開示書面(中小小売商業振興法、フランチャイズ・ガイドライン)
  • 加盟申込金
  • 電子契約
  • 連帯保証人への説明

トラブル回避対応事例3|開店後の運営

フランチャイズトラブル回避ガイド Q122より>
ある加盟者が軽微な契約違反を繰り返し、本部が注意しても改める様子が見られません。加盟者にペナルティを課したいと思いますが可能でしょうか。契約書には、契約解除以外にペナルティに関する条項は設定されていません。

解説

    • 軽微な違反行為の例:
      • ロイヤリティは支払うものの遅れがち
      • 報告書をちゃんと書かない・提出しない
      • チェーン全体で行なうキャンペーンの販促物を配布しない
    • 本部が加盟者に対して課すことのできるペナルティは、FC契約書で明らかにしておく必要があります。FC契約書に定めの無いペナルティを加盟者に対して課すことはできません。
    • しかし、契約違反が繰り返し行われており、本部の加盟者に対して再三の改善指導を行ったにも関わらず改善されない場合は、その加盟者との契約を解除すべきです(信頼関係が著しく破壊された状態)。
    • 日常業務としては、SV(スーパーバイザー)による加盟店舗指導の際、SV報告書に、臨店時に確認した事項(クレンリネスや商材管理などの店舗運営状況、売上や原価率などの数値情報等)、加盟者に対して行った指導内容などを具体的に記録してきます。その上で、店長・加盟者から署名をとっておくようにします。また、SV報告書は、加盟店舗(店長)に提出するだけなく、オーナー向けの報告欄を設けて、本部からオーナーへ直接報告するようにします。
    • このことで、本部から加盟者に対し、どのような指導を加盟店の店長やオーナーに対して行なっていたか、その事実を証拠として残すことができます。

関連キーワード

  • スーパーバイザー(経営指導・運営指導)
  • 独占禁止法(フランチャイズ・ガイドライン)
  • 守秘義務
  • 競業避止義務
  • FC契約内容の変更

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