最近、フランチャイズ本部構築に関する相談として、
「展開している店舗の調子が良く、知人から自分(自社)でもやりたいと言われている」
「知人から頼まれてフランチャイズ契約をしたが本部としての体制が整っていない」
といったものが寄せられています。
本来であれば、フランチャイズ展開するためには直営店にて十分に経験し、その業態の有効性が検証できている必要があります。しかし、ビジネス環境やお客様の趣味嗜好は激しく変化し続けています。準備にもたついているうちに、折角の機会を逃しかねない状況です。
そこで、今回は「素早いフランチャイズ本部構築」について考えてみたいと思います。
「3ショップ・2イヤーズルール」は大事だが・・・
以前、「ビジネスモデル・キャンバスから見るフランチャイズ展開するための3条件」というコラムを書きました。
以下、この中からの引用です。
FCビジネスでは、「3ショップ・2イヤーズルール」というものがあります。FC展開をするには、最低でも3店舗を2年以上運営した経験が必要だというものです。異なる条件(商圏、立地など)の直営店を複数店舗運営していることで、成功するためのノウハウを確立しておく必要があります。
しかし、現在は変化が激しい時代です。準備ばかりに時間をかけていては、ようやく本部が立ち上がるころには市場の状況、顧客の嗜好が変わってしまい、市場での優位性を得られないということも考えられます。そのため、運営経験を1年程度とする考え方もあります。
絶え間ない改革とスピードも大事
次のグラフをご確認ください。
これは、世界的コンサルティング会社のBCGが2009年のレポート(『Business Model Innovation』(Dec.2009)Martin Reeves)で示したものです。
縦軸(%)は、業界の平均収益率からの差を表しており、ビジネスモデルの革新に成功したとしても、それで得られる競争優位性は5~10年の間しかないことを示しています(▲:ビジネスモデル・イノベーター)。ビジネスモデルの革新を起こしたときには、業界の平均収益率からの差は大きいのですが、10年も経ってしまえば、プロセス/製品・イノベーター(□)や平均企業(●)との差はほとんどなくなってしまうのです。
5年もしないうちに他社にモノマネされて、あっという間に後発企業に抜かれてしまう事はザラにあります。変化の激しい現代では、常にスピード感を持って改革を継続していかなければ、生き残ること自体が難しくなっているのです。
フランチャイズにも「リーンスタートアップ」という方法が適用できる
ムダのない事業展開の方法として「リーンスタートアップ」という方法があります。
これは、元々トヨタの開発方式を参考に米国シリコンバレーにて生まれた方法ですが、FC展開を考える企業の経営・多店舗化にも生かせる方法です。
構築~計測~学習を素早くループすることによってムダな労力を省き、改良を続けながら成功へと近づけていく手法です。
- 新しいアイデアや仮説(メニュー・サービス、店舗の外装・内装、提供方法など)を構築する。
- (Ⅰ)をお客様へ提供して反応を定量的・定性的に計測する。
- (Ⅱ)データをアイデアや仮説の検証の学習に使い「そのままいくのか?」「方向転換するのか?」「やめるのか?」の判断をする。
- 再び(Ⅰ)に戻り、このループを繰り返して成功へ近づける。
この方法は、フランチャイズ展開にも適用できるものです。
フランチャイズトライアル契約という方法がある
最低限のフランチャイズ本部体制を整えるには、通常、半年~1年という時間がかかります。しかし、その準備だけに時間をかけているわけにはいきません。
「やっとフランチャイズ本部としての体制が整った」「よし加盟店を募集しよう」となったときには、ビジネス環境やお客様の嗜好が変化してしまい、市場優位性を失っている可能性もあります。また、最初に紹介したように、調子が良い業態を持っていると「自分もやってみたい」という人々が現れてきます。
これらに対応するための手法として「フランチャイズトライアル契約」というものがあります。
これは、信頼できる知人や企業などと、フランチャイズ本部構築の準備を手伝ってもらうことを前提にトライアル契約を締結するものです。この契約は期間を1年と限定し、加盟金やロイヤリティを大幅に減額あるいは無料として、そのビジネモデルやフランチャイズ展開の検証や展開を協力してもらうのです。これは、前述したリーンスタートアップの考え方をフランチャイズ展開に適用したもので、構築~計測~学習を素早くループさせて、フランチャイズ化の成功を高めるのです。
しかし、これを可能にするためには条件があります。まずは、現在展開している業態に圧倒的な競争力があること。具体的には、行列ができており収益力が高いことです。そして、これが重要なことですが、トライアル契約を締結する先として、絶対的な信頼がおける相手であることです。
今回、素早いフランチャイズ本部構築について考えてみました。どの企業にもできるというものではありませんが、競争力がある業態があり、信頼できる相手がいる場合には、考えてみてはいかがでしょうか。
通常のフランチャイズ契約書の作り方については以下のコラムを参考に。