フランチャイズ本部のアメリカ進出 ~NY最新小売業態視察ツアーに行ってきた~

フランチャイズ本部のアメリカ進出

フランチャイズの起源は、1850年代のアメリカのミシン会社「シンガー社」であると言われ、販売権を持つ小売店を全米に設置したのが、その始まりとされています。

これまでは、アメリカのフランチャイズブランドを日本へ持ってきたり、フランチャイズビジネスの仕組みを参考にしたりということが主でした。しかし、最近は日本からアメリカへ進出する動きが見られます。

5/14~20にニューヨーク最新小売業態視察ツアーに参加してきました。そこで見て・感じたことを踏まえつつ、日本のフランチャイズ本部によるアメリカ(海外)進出についてまとめました。

ニューヨークツアーの概要

日本小売業協会主催「ニューヨーク最新小売業態視察ツアー」は、2014年5月14日(水)〜20日(火)の日程で実施されました。アメリカ本土は12年ぶり、NYは初めての訪問です。流通視察に遊びもありで、様々な学びのあるツアーでした。

【1日目】成田発(飛行時間:約13時間)

到着後、NY市内(マンハッタン)視察(ブリッジマーケット、バッテリー・パーク、グランド・ゼロ、国連ビル、セントラルパークなど)
<夜>ツアーメンバーと夕食

【2日目】オリエンテーションセミナー、視察

NY市郊外店舗視察(ハリマンコモンズ、ウッドベリーコモン・プレミアムアウトレット、ウェストチェスターモール、ステューレナーズなど)
<夜>自由行動:ビレッジ・ヴァンガードで本場のジャズを堪能。

【3日目】視察

ブルーミングデールズ百貨店での朝食ミーティング&店内視察
ミッドタウン地区(五番街)を中心に自由視察
<夜>自由行動:ミュージカル「オペラ座の怪人」を鑑賞

【4日目】視察、まとめセミナー

ロワー・マンハッタン、ソーホー、ミートパッキング地区店舗視察(ホールフード・マーケット、イータリー、メイシーズ、チェルシーマーケット、トレーダージョーなど)
マンハッタンの南側を中心に視察。メイシーズでは、注目していたオムニチャネルの状況を確認。その他、様々な特徴ある場所や店舗を視察。
<夜>中華料理店にてまとめセミナー&ディナー

【5日目】終日自由行動

朝からメトロポリタン美術館へ。カフェでお昼を取り4時間ほど滞在。それでも広すぎて全てを見ることはできません。その後、気になっていたフランチャイズ店舗などを視察。
夜はディナークルーズへ。綺麗な夜景を見ながら、ゆっくりと食事を頂きました。

【6日目】NY発(飛行時間:約14時間)成田着

日本のフランチャイズ本部によるアメリカ進出

最近、日本のフランチャイズ本部による海外進出の話題を多く聞きます。その進出先としてはアジアが中心となっており、アメリカ進出を果たす企業、準備段階にある企業も少なからずあります。
アメリカ進出をしているフランチャイズ本部(のれん分け含む)の例としては「大戸屋」「一風堂」「吉野家」「CoCo壱番屋」「ゴーゴーカレー」「BOOKOFF」「KUMON」などがあります。

大戸屋の例

大戸屋は、NY・マンハッタンのチェルシー地区と、ミッドタウン地区のタイムズスクエアの近くに2店舗出店しています。日本の店舗とはイメージが異なっていて、おしゃれでモダンな内装と食器、日本酒も提供されています。定食の価格は20ドル弱と日本に比べると高めの設定ですが、マンハッタンの相場を考えるとむしろ割安で、本物志向の美味しい日本食が食べられる話題のレストランとして常に混み合っています。

一風堂の例

一風堂一風堂は、ニューヨーク・マンハッタンのウエストとイーストに、それぞれ1店舗ずつ出店。ラーメンの価格は15ドル前後と、大戸屋と同様に日本と比べて高めの設定ですが、ディナータイムには90分待ちになることさえあるといいます。私が宿泊したホテルから数分のところにあるウエストサイド店。訪ねたのはランチタイムも終わりを迎える15時過ぎ。行列こそしていませんでしたが店内には顧客が多数いました。

公文式の例

公文式は、1974年ニューヨークでの算数・数学教室の開設から始まりました。
当時、仕事の関係などでニューヨークに在住する、日本で公文式を受けていた日本人(子ども・保護者)からの「NYでも公文式を続けたい」との声に答える形で教室が開かれました。
そして、TVニュースで公文式を知ったアラバマ州サミトン校副校長先生からの強い申し入れにより、正課の授業に導入されめざましい学習効果を発揮。そのことが、1989年『Newsweek』記事が掲載されると、全米から問い合わせが殺到。翌1990年『TIME』誌にも記事が掲載。これらの記事をきっかけに、世界各地で急速に広がる事になりました。

なぜアメリカに進出するのか?

私がご支援したフランチャイズ本部はアメリカ進出に向けた準備を進めています。
幹部に「なぜアジア進出ではなかったのか?」という質問をしたところ、
「アメリカには様々な人種がいて、その市場規模はアジアとは比べ物になりません。また、アメリカで成功すればブランド力が増し、その後のアジア進出は容易になると考えています」
との答えをいただきました。
フランチャイズ誕生の地であるアメリカへの進出により、そのノウハウが蓄積されます。さらに、アメリカで成功することで圧倒的なブランド力も手に入り、アメリカからアジアへのフランチャイズ展開が容易になるということのようでした。

日本におけるフランチャイズ海外展開の支援状況

JETRO(日本貿易振興機構)では、ニューヨークで開催されている、アメリカ最大級の国際フランチャイズ展示会「インターナショナル・フランチャイズ・エキスポ」にジャパン・パビリオン(日本ブース)を設けて、アメリカにおけるフランチャイズ展開を目指す企業を支援しています。
昨年は3小間を出展。日本ブースは非常に好評で多くの来場者が訪れたそうで、この展示会で好評を得た企業がアメリカ進出を決断し、同年9月には現地法人を設立したとのことです。さらに今年の展示会では14小間に拡大しているようです。
アメリカ市場への進出を検討している企業にとっては、自社のビジネスモデルやブランド、商品・サービスへの反応を確かめるには良い場所になるでしょう。

貧富の差が広がるアメリカ

海外進出では、日本とは異なる市場特性(人口動態・構成、文化・歴史、法律、ビジネス習慣など)を捉えて対応していくことが必要となります。
魅力的な市場に見えるアメリカではありますが、その実態はどうなのか?アメリカの社会状況について触れておきたいと思います。
まず、アメリカの人口は増加傾向にあり、今後も伸びると予想されています。

日本とアメリカにおける人口推移(予測)

(出典:国立社会保障・人口問題研究所)

また、国民の平均所得も増えています。

アメリカにおける所得平均の推移

(出典:アメリカ商務省)

しかし、その一方で貧富の差が大きくなっています。

アメリカにおける所得5分位別および上位5%の所得推移

(出典:アメリカ商務省)

人口は増加傾向にあり、国民の平均所得も増加傾向にあるが、その一方で貧富の差が大きくなっているアメリカという市場環境。視察で得た事例として、スーパー3社(A社、B社、C社)の例を紹介しておきます。

  • A社は、最低年収層および低年収層の下位を中心に、『徹底的に低価格』を訴求して急拡大。その後、ターゲットを低年収層の上位、中年収層へと拡大し好調である。
  • C社は中年収層の下位を中心に、『ちょっと良いものを適正価格』で提供することで急拡大。その後、低年収層の上位層にも拡大し好調である。
  • B社はというと、A社とC社の間の層をターゲットとしていたが、両社に挟まれ業績を低下させている。

市場特性に応じた戦略を打ち出し・すぐに実行し・その変化にも素早く対応する力を持っていなければならないという、分かりやすい事例でした。これは、日本でも同様なことが言えますが、様々な民族が暮らし、そのうえ貧富の差が広がるアメリカ市場においては、この結果が顕著に現れるものと感じました。

海外進出のポイント

アメリカに限らず海外へ進出する際には、市場特性に応じた戦略を打ち出し、その変化にも素早く対応する力を持っていなければ、前述のB社のように苦しい状況に置かれることになります。

海外進出における具体的なポイントを5つあげておきたいと思います。

①事前準備を十分に行う

十分な事前準備なしに海外進出することは、設計図なしで家を建てることと同じです。海外進出で起こる想定外のこと対して適切な判断と対応をするためにも必要なものです。また、計画段階では撤退基準を決めておくことも大事です。撤退基準を決めておくことで傷を浅くすることができ再挑戦も可能になります。さらに、事業計画は、現地パートナーに、事業ビジョンやビジネスモデルなどを理解してもらうためにも重要なものです。

②パートナー選定が成功の大きな鍵

海外展開の成功可否を決める大きな鍵となるのが、現地のパートナー選定です。パートナーとの長期的な友好関係を維持するためにはビジョンの共有が大切です。現地パートナー選びでは、自社の事業ビジョンやビジネスモデルへの理解があるか?現地の事情に明るく、物件情報や流通チャネルなどを有しているか?などがポイントになります。そして、パートナーとの役割分担を明確にしておくことも重要で、パートナーに任せきりにしてはいけません。

③現地化(ローカライズ)をする

海外進出において成功の鍵を握るのは現地化(ローカライズ)です。いかに現地に合わせて商品やサービスを開発し、提供できるかが勝負の分かれ目となります。特に飲食業では、現地の食文化・顧客の嗜好・ニーズをよく理解した上でのメニュー開発や店舗内外装の決定が必要です。その意味でも、現地の事業に明るいパートナーの存在は重要です。現地化の成功例としては「味千拉麺」や「吉野家」、失敗(撤退)の例としては「餃子の王将」の中国進出があります。

④事実上の標準(デファクトスタンダード)となる

事実上の標準(デファクトスタンダード)とは、規格制定機関の認定によって定められた標準規格ではなく、市場競争の結果、標準と見なされている規格のことです。進出先の国で、デファクトスタンダードとなれれば、簡単には顧客は離れていかず、非常に強力なブランドを構築することができます。成功した例として、「CoCo壱番屋」「味千拉麺」の中国への進出が上げられます。

⑤契約書で日本の法律文化は通用しない

日本の契約書では、「~の場合、甲乙双方誠実に協議のうえで解決するものとする」という条文をよく目にしますが、海外当事者との契約で、このような条項を入れること自体が稀です。契約書は、双方が誠実に協議できなくなった場合の解決指針として機能するものです。あらゆるケースを想定して、どのように対処するかを契約書に盛り込む必要があります。

フランチャイズ方式による海外展開

日本は、2006年を期に人口減少社会に突入、以降、人口は減り続けており、2050年には1億人を割り込むと予測されています。日本国内だけでビジネスを続けようとすれば、小さくなる一方の市場で顧客を奪い合うという状況からは逃れられません。運よくブルーオーシャンを見つけられれば良いですが簡単なことではありません。

一方、海外に目を転じれば魅力的な市場があり、大きなビジネスチャンスが転がっています。先進国のなかではアメリカ、イギリス、フランスの人口増加が予測されています。さらに、アジアは世界人口の6割を占めているうえ、さらなる人口増加が見込まれています。アジア諸国が魅力的な市場となっています。

日本の商品やサービスに対する世界各国からの評価は非常に高く、海外の事業家にとって日本フランドは魅力的です。外国人からこのブランドを自国でもやりたいと提案を受けたことがある日本企業のオーナーはいないでしょうか。実際、私が相談を受けたなかでは、地方のラーメン店で、HPからの問い合わせで中国人から自国で展開したいというオファーがあり、どうしたものかというものがありました。そのHPも何年も前に設置し、ほとんどメンテナンスしていないようなものでしたが、複数人からの問い合わせがあったそうです。多くの事業家が自国に持ち帰って儲けられそうな日本ブランドを探しているのです。海外市場にチャレンジする価値は十分にあるでしょう。

こうした背景のもと、JETROではサービス産業(外食、小売、教育、理美容、コンテンツ、介護・福祉など)の海外展開を積極的に支援しています。しかし、経営資源の乏しい中小企業が海外展開を行うことは大きなリスクを伴うものです。

フランチャイズ方式であれば、中小・小規模企業でも海外展開は十分に可能です。特に、複数店舗を有している中小のフランチャイズチェーンやレギュラーチェーンであれば、大きなリスクを伴わないフランチャイズ方式による海外展開を積極的に考えても良いのではないでしょうか。

(参考文献:『フランチャイズ方式による海外展開ガイド』フランチャイズ研究会 著)


行きの飛行機のことです。ニューヨークまであと数時間というところで、最後の機内食が出されました。その名も「AirMOS」↓
野菜やソースが別々に出され、自分で作って食べるものです。野菜も新鮮に感じられ、とてもおいしくいただきました。なかなか面白いコラボレーションです。

 

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