「ピロリン♪」
ある日のこと、フランチャイズコンサルタント高木のもとに、リラクゼーションサロンを経営するふら美さんからSNSメッセージが届きました。
開業前研修の途中で加盟店社長からクレーム!!
【解説】
開業前研修とは、その名の通り、店舗を開業する前に実施する研修で、加盟者が事業を開始するにあたり必要な知識やスキルを身につけるためのものです。本部は、この研修によって加盟者(受講者)をどのレベルまで引き上げるかを定義しておき、そのために必要なカリキュラム・研修期間を設計します。フランチャイズビジネスの場合は、必要なノウハウを短期間で身につけられる、ということがポイントになります。必要な研修期間は、業種・業態によっても異なりますが、概ね1ヶ月以内に、最低限、店舗運営が可能なレベルまで引き上げられるように設計する必要があります。
FC加盟店社長のクレーム内容とFC本部の言い分
ふら美さんに確認をすると、概ね次のような状況でした。
FC加盟店社長からのクレーム内容:
- 加盟店のFC事業責任者から、研修の報告があがってこない。
- FC事業責任者に聞いてもあやふやな答えしか返ってこない。
- 研修をちゃんとやっていないのではないか?
- テキストを見たが、こんな内容で経営できるのか?
- そもそも、本部にはノウハウがあるのか?
FC本部ふら美さんの言い分:
- 施術方法については、DVDなども見せて、OJTで教えている。
- お店の運営方法については、この後、実際の店舗でOJTで教える予定である。
- 加盟店のFC事業責任者がだらしなく、急に休んだりして、きちんと受けに来ない。
- FC事業責任者は加盟店の従業員であって、報連相など基本的なことができていないのは加盟店社長の責任でしょ。
【解説】
※法人企業の加盟について
フランチャイズというと、個人が独立の手段としてFC加盟を検討するというケースを思い浮かべるかもしれません。しかし実際には、法人企業がFC加盟をして新規事業を始めるケースも多いのです。地域の「名士」と呼ばれる経営者(企業)には、加盟したFCの複数店舗展開や、複数業種へのFC加盟によって大きく成長している人もいます(いわゆる”メガフランチャイジー”)。
※法人加盟ではエースを投入する
法人加盟では、加盟店オーナー(社長)と、店舗責任者・店長(FC事業責任者)は異なることがほとんどです。そのため、誰をFC加盟店における事業責任者にするかということは重要です。
本部から経営ノウハウが得られるといっても、その企業にとって新しい事業を始めることに変わりはありません。エース級の人材投入は必須です。
FC本部も、その点については、しっかりと事前説明をしておき、本部が認めないような人員であれば交代を求めることをFC契約でも締結しておく必要があります。
過不足あり、整理できていないマニュアル
研修のカリキュラムや進め方にも問題あり
ふら美さんに集めてもらったもの
それなりに厚みがあるようには見える。
しかし、同じような内容のものが重複していたり、文字ばかり羅列されていたり、これだけ見ても理解するのが難しい状態。
詳しく確認していくと。。。
<マニュアルについて>
- マニュアルは、施術方法とその時のトークの流れのみが存在。
- これに加えてDVDに保存した施術動画がある。
- その他、店舗の日報、月報、月ごとの売上目標設定シート、シフト表などがある。しかし、その帳票類の使い方を説明するものはない。
- 売上管理、人材管理など、マネジメント系のマニュアルはない。
- 店舗の清掃方法、備品類の管理方法など、設備の維持管理方法、クリンリネス関係はない。
- 売り上げを維持、上げるためのマーケティングマニュアルはない。
- マニュアルは、各担当が個別に作っている。
- それぞれバラバラになっていて系統だって整理はされていない。
- 電子ファイルも色々なパソコンにバラバラに入っており、物によっては紙しかないものもある。
- 店舗ごと独自に作っているマニュアルや管理表がある。
- そのため、マニュアル一式を加盟者には渡していない。
<開業前研修について>
- 大きく2つの研修に別れる。施術技術と店舗運営。
- 研修については、マニュアル類から必要なものを抜粋・配布して説明。
- 施術技術は、上記書類とDVDを使い、本部の研修室で行っている。
- 店舗運営は、直営店に1週間入ってもらい、オープンからクローズまでのやり方を、OJTで教えている。
- 必要なことは、受講生にメモをとってもらうようにしている
- 研修前に、加盟店社長と受講生(FC事業責任者)へ研修の日程表を渡している。
- 途中の確認テストは特になし(施術に関しては、都度、レベル確認はしている)
- 研修途中に、加盟店社長への報告はしていない。
原因は、必要なマニュアルが作成しきれていない、きちんと整理されていないことにあり、その結果、フランチャイズマニュアル一式を加盟者に渡していませんでした。
そして、研修のカリキュラムの組み方、加盟店社長とのコミュニケーションにも問題がありました。
対応策として、まずは、マニュアルを整備すること。それを元に研修カリキュラムを作ること。 そして、研修では学習状況のチェックとオーナー報告を定期的に行うことが必要となりました。
マニュアル作成&研修準備プロジェクトスタート
今回のケースでは、
- 事前準備をする
- プロジェクトをスタートする
- フランチャイズマニュアルを作成する
- 研修準備をする
という4つの流れで対応することになりました。
1.事前準備をする
①あるべきマニュアルのスケルトンを整理
あるべきマニュアルのリストとスケルトン(目次)を整理します。
フランチャイズマニュアルには、以下のようなマニュアルが必要です。
- 基本マニュアル
- 管理マニュアル
- オペレーションマニュアル
- マーケティングマニュアル
- 加盟店開発マニュアル
- 開業マニュアル
- SVマニュアル
- マニュアル管理マニュアル
スケルトン(目次)は、以下のような表にしてまとめていきます。
②現状確認
次に、今あるものを集めます。 紙ベースのもの、電子ファイルで作られたもの、店舗の壁などに張り出されているもの、従業員の研修時にだけ配布しているもの、店長などが独自に作成したものなど。そして、①で作成したスケルトンと照らし合わせながら、どのマニュアルがあって、どのレベルで書いているかをチェックしていきます。
2.プロジェクトをスタートする
①ゴール設定
事前準備で整理したスケルトンをもとに、いつまでに、どのマニュアルまで仕上げるのか、どのレベルまで書くかを整理し、優先順位をつけます。
そして、必要な作業項目(フォーマット作成、現場取材、作成、取りまとめ、レビュー、修正など)を洗い出して全体のスケジュールを立てます。
※本来は、全てのマニュアルが揃っていることがベストですが、「加盟店開発マニュアル」「開業マニュアル」「SVマニュアル」「マニュアル管理マニュアル」などは、本部が使うものですので、後回しでも問題ありません。最低限、加盟者が店舗運営できるレベルのものから作成していくことが現実的です。
②チーム編成
①までくると、全体の作業量がわかり、また、誰が関わると良いかがわかってきます。必要な人材と人数を見積もり、チーム(プロジェクトマネージャー、取りまとめ役、作成担当など)を編成します。
③担当振分
スケルトンの各項目に担当を割り振っていきます。
3.フランチャイズマニュアルを作成する
①マニュアルのフォーマット作成
チームでバラバラに書き進めてしまうと、後で取りまとめるときに二度手間になってしまいます。最初に、書き込むべきフォーマットを作成し、各担当と共有しておきます。
どのアプリケーションを使っても良いですが、一般的には、MicrosoftR Wordを使うと良いでしょう。大抵のパソコンに入っていますし、得手不得手はありますが、大概の人が、文字入力くらいはできます。
(※Microsoftは、米国MicrosoftCorporationの、米国およびその他の国における登録商標または商標です)
②担当ごとに作成
各担当者は、①のフォーマットに作成していきます。
すでに電子ファイルが存在しているものは、①のフォーマットに移していきます。
紙媒体しかないものは、仕方ないので、すべて手打ちで入力していきます。
新たに作成しないといけないものは、現場取材(ヒアリング、写真・動画撮影)によって必要な材料を収集し、作成を進めます。
③進捗確認、レビュー
プロジェクトマネージャーは、各担当の進捗状況を確認し、遅れがないか、問題が発生していないか、作業量が誰かに偏っていないかなどを確認をし、必要に応じて手当てをしていきます。
また、一定期間ごとに、全員または主要メンバーを集めてレビューを行います。書き方、書いているボリュームのバランス、過不足、重複箇所がないかなど、全体の確認・調整をして仕上がりを統一化していきます。
④取りまとめ
各担当者が作成したものは、取りまとめ担当が、一つのものへとまとめていきます。
4.研修準備をする
①研修カリキュラム・実施期間を設計
開業前研修のカリキュラム内容と実施期間を設計します。必要内容として、座学形式で学ぶ「チェーンの経営理念」「店舗の運営・管理方法」「関連法規」などがあり、施術など特別な技術が必要な場合には実技研修、さらに、実際の店舗における業務研修などがあります。開業時点に必要な知識・スキルを身につけられるよう設計します。
②マニュアルをピックアップ
各カリキュラムの項目ごとに、どのマニュアルが必要になるかピックアップします。ピックアップしたマニュアルを、再度一つにまとめてテキストにしておきましょう。このとき、ピックアップしやすいように、マニュアルを作成する際には、単元ごとに切りのよいところで改ページをしておいたり、印刷するときには片面印刷にしておくなどをしておくと良いです。
③出席簿を準備
出席の有無、受講姿勢などを記録するための帳票を準備しておきます。研修が始まったら、毎回、記録にとっておきます。
④確認テスト
研修中に一定単元ごとに、受講生(加盟者)が一定レベルに達しているかテストを行う必要があります。そのための筆記テスト、実務テストを準備します。特に実務テストは、評価軸を明確にして、曖昧な評価にならないよう設計します。
⑤研修実施中は定期報告
実際に研修を進める時には、加盟店オーナー(社長)へ定期的に報告を行います。出席状況、受講姿勢、確認テストの点数、研修の終了予定などを伝えます。そして大事なことは、その担当者がダメであれば人員交代の申し出を行うことです。ダメなままズルズルと続けていても、結果的に、両社にとって不幸になるだけです。そのためにも、出席状況、受講姿勢、確認テストなどの記録をしっかりとっておくことです。前提として、フランチャイズ契約書に、人員交代の指示を行う可能性があることを入れておく必要はあります。
【解説】
FC本部にとっての商品は経営ノウハウです。そのノウハウの対価として加盟店は加盟金を払います。 そしてフランチャイズマニュアルは、そのノウハウを象徴するものです。
「うちには、独自の経営ノウハウがある」と、いくら本部が言っても、その証拠となる目に見えるものがなければ加盟者は不安になります。
加盟店オーナーにしてみれば、あれだけお金を払ったのに大丈夫なのかと思うのは当然のことです。
それに加えて、研修中にも、その状況がわからないとなれば、今回の加盟店社長のようになるのは仕方ありません。ただ、今回のケースにおいて、加盟店の担当者は、ちょっとひどかったですが。。。
フランチャイズマニュアルは作って終わりではない
【解説】
フランチャイズマニュアルは作って終わりではありません。
作成したものをしっかりと活用していくことが重要です。全店舗・全員がマニュアルを活用しなくてはいけません。マニュアルを活用するためのしかけ作りが必要です。
また、外部環境の変化や顧客の変化に対応するため、自社のビジネスモデルやビジネス・プロセス、商品・サービスの変化は常に行う必要があります。当然、それにともなってマニュアルの改訂作業も必須となります。そのための、管理体制や改訂ルールなどのしくみの整備が必要です。
まとめ
加盟店とのトラブルが発生
少し前に加盟した加盟店の開業前研修を開始。
しかし、「ちゃんと研修をやっているのか?!」と加盟店社長からクレームが入る。
原因と対策
原因は、必要なマニュアルが作成しきれていない、きちんと整理されていないことにあり、その結果、フランチャイズマニュアル一式を加盟者に渡していなかった。研修のカリキュラムの組み方、加盟店社長とのコミュニケーションにも問題あった。
対応策として、まずは、マニュアルを整備すること。それを元に研修カリキュラムを作ること。そして、研修では学習状況のチェックとオーナー報告を定期的に行うことが必要となった。
4つのフェーズで進めた
1.事前準備をする
①あるべきマニュアルのスケルトンを整理
②現状確認
2.作成プロジェクトをスタートする
①ゴール設定
②チーム編成
③担当振分
3.フランチャイズマニュアルを作成する
①マニュアルのフォーマット作成
②担当ごとに作成
③進捗確認、レビュー
④取りまとめ
4.研修準備をする
①研修カリキュラム・実施期間を設計
②マニュアルをピックアップ
③出席簿を準備
④確認テスト
⑤研修実施中は定期報告
フランチャイズマニュアルは作って終わりではない
作成したものをしっかりと活用していくことが重要。
ビジネスの変化に対応し、マニュアルの改訂作業も必須。
そのためのしくみの整備が必要。
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※この物語は実際に起きたケースを元にしたフィクションです。登場する個人名・団体名などはすべて架空のものです。