日本では、フランチャイズビジネスを直接規制する、いわゆる「フランチャイズ法」は存在しません。
その代わりに、
- 中小小売商業振興法(および中小小売商業振興法施行規則)
- 公正取引委員会「フランチャイズ・ガイドライン」
この2つが“土台”としてフランチャイズを支えています。
フランチャイズビジネスにこれから関わろうとする人にとって、「法律」は少し遠い世界に感じるかもしれません。しかし、上記2つは必ず押さえておかなければならない法律です。
今回は、条文のエッセンスを少しだけ引用しながら、これからフランチャイズに関わる加盟希望者・本部側どちらにも役立つ視点で解説します。
「日本にはフランチャイズ法がない」という現実
まず押さえておきたいのは、日本にはアメリカや一部アジア諸国のような「フランチャイズ専用法」はない、ということです。
その代わりに、
- 中小小売商業振興法
→ 主に「加盟希望者への情報開示」を義務づける法律 - 独占禁止法(フランチャイズ・ガイドライン)
→ 本部が“やりすぎ”にならないよう、取引の在り方を示す指針
という“組み合わせ”で、フランチャイズの公正さを守っています。
ですから、フランチャイズに関わる人は、
「このビジネスモデルは儲かりそうか?」だけでなく、
「この本部は、法律・ガイドラインに沿った運営をしているか?」
という視点を持つことが、とても重要になります。
中小小売商業振興法:第11条がフランチャイズの“要”
そもそもどんな法律?
中小小売商業振興法は、もともと商店街の整備や中小小売商業者の近代化を進めるための法律です。
同法は、その目的を
「中小小売商業の振興を図り、国民経済の健全な発展に寄与する」
こととしています。
その中で、フランチャイズと特に関係が深いのが第11条「特定連鎖化事業の運営の適正化」です。
ここでいう「特定連鎖化事業」の代表例が、コンビニや飲食フランチャイズなど、小売・飲食分野のフランチャイズチェーンです。
第11条が求める「情報開示」とは?
第11条に基づき、本部はフランチャイズ契約を結ぶ前に、加盟希望者へ一定の情報を書面で交付し、説明する義務を負います。
開示すべき主な項目として、例えば次のようなものが示されています。
本部事業者の概要
- 会社の基本情報、株主、子会社
- 店舗数の推移、訴訟件数など
加盟者にとって重要な契約内容
- テリトリー権(商圏保護)の有無
- 競業避止義務・守秘義務の内容
- 加盟金・ロイヤルティの計算方法
- 商品・原材料の仕入条件
- 契約期間、更新条件、解除条件 など
ポイントは、加盟者が長期契約の重さを理解したうえで判断できるだけの情報を事前に与えることです。
「よく分からないけど、本部を信用してハンコを押しました」という状態を防ぐための仕組み、とイメージすると分かりやすいと思います。
令和3年改正:「類似立地の加盟店収支」の開示義務
2021年(令和3年)の法改正では、加盟希望者がよりリアルな情報を得られるように、新しい開示項目が追加されました。
「加盟者の店舗のうち、立地条件が類似するものの直近3事業年度の収支に関する事項」
つまり、加盟希望者が出店を検討している立地と条件が似ている既存加盟店を選び、その店舗の過去3期分の収支データを開示しなければならないというルールです。
ただし、既存加盟店の個別データは営業秘密なので、本部は「店舗が特定されないように工夫しつつ」開示する必要があります。
加盟希望者の立場でのチェックポイント
これから加盟を検討する人は、最低限次を確認しましょう。
- 類似立地の収支データが提示されているか
- その店舗を「類似」と判断した理由・根拠の説明があるか
- データが単なる“モデル収支”ではなく、実在店舗の実績に基づいているか
もし、「うちはデータがないので、モデル数字だけです」といった説明しかない場合、ビジネスとしてまだ検証不足か、本部が法改正に追いついていない可能性があります。
フランチャイズ・ガイドライン:独占禁止法の“解説書”
どういう位置づけのものか
「フランチャイズ・ガイドライン」は、公正取引委員会がまとめた、フランチャイズビジネスにおける独占禁止法上の考え方を示した文書です。
ガイドラインではフランチャイズ・システムを、
本部が加盟者に対して商標・商号等の使用権を与え、
統一的な方法で統制・指導・援助を行い、
その対価として加盟者が本部に金銭を支払う事業形態
と定義しています。
契約の名称が「代理店」「パートナーシップ」「パッケージライセンス」などであっても、実態がこの定義に当てはまれば、フランチャイズ・ガイドラインの対象になるという点がポイントです。
どんな行為が問題になるのか
ガイドラインの狙いは、
「本部と加盟者の力関係の差を悪用した“行き過ぎた支配”を抑えること」
にあります。
例えば、こんなテーマが詳しく示されています。
- 募集時の説明(予想売上・収益など)
- 仕入れ数量の強制
- 年中無休・24時間営業の強要
- ドミナント出店(同一商圏への過度な多店舗展開)
- 見切り販売(値引き販売)の制限 など
これらがどのラインを超えると独禁法違反の可能性があるのかが、具体例とともに解説されています。
これからフランチャイズに関わる人が押さえる実務ポイント
ここからは、実際にフランチャイズに関わる際に、
加盟希望者側・本部側それぞれの立場で何を意識すべきかを整理します。
加盟希望者の視点:最低限ここは確認したい
「情報開示書面」をきちんともらう
- 中小小売商業振興法にもとづく法定開示書面が用意されているか
- 契約締結の“直前ではなく”、検討のために十分な時間を取れるタイミングで交付されているか
もし、「契約の前日にもらった」「意思決定が固まるまで開示書面は出せないと言われた」といった状況であれば、そもそもルールを理解していない本部である可能性があります。
収支・売上予測の「根拠」を聞く
- 予測数字の根拠となる既存店舗のデータはあるか
- 「類似立地の過去3年収支」が開示されているか
- 「成功店」だけでなく平均・不振店のレンジも提示されているか
ガイドライン上は、「ぎまん的顧客誘引」(誤解させるような甘い説明)は独禁法上の問題行為とされます。
「誰でも月商○○円いきます」
「絶対に失敗しません」
といった言い回しが目立つ場合は、一度立ち止まって冷静に見るべきです。
契約の“出口条件”を理解する
中途解約はできるのか、その場合の違約金はどうなるのか
契約終了後の**競業避止義務(同業の禁止期間・範囲)**は妥当か
商標・ノウハウを使えなくなった後の既存客・従業員・設備の扱いはどうなるか
「始める条件」だけでなく、
「やめる条件」を理解してから契約することが、フランチャイズでは特に重要です。
本部側の視点:法令遵守は“攻めの武器”になる
これから本部を立ち上げる、あるいは既に本部を運営している側にとって、
中小小売商業振興法とガイドラインは「守り」のためだけのルールではありません。
情報開示書面を“営業ツール”にする
情報開示ガイドでは、中小小売商業振興法の趣旨に沿った実務的な開示の考え方が整理されています。
- 自社の強み・弱みを正直に開示する
- 加盟者にとってのリスクもきちんと説明する
- それでも「一緒にやりたい」と言ってくれる人だけに加盟してもらう
こうしたスタンスは、結果としてトラブルの少ないチェーンを育てる近道になります。
説明内容を記録しておく
トラブル回避のガイドでは、加盟説明や契約前のやり取りを記録に残しておくことの重要性が繰り返し強調されています。
- 説明資料のバージョン管理
- 面談記録への署名・捺印
- 質問への回答をメール等で残す
といった「地味な作業」が、後々、「言った/言わない」トラブルから本部と加盟者を守ってくれます。
ガイドラインを“社内マニュアル”レベルまで落とし込む
フランチャイズ・ガイドラインは、フランチャイズ本部を運営する上で、必ず押さえておかなければならない重要なものです。
本部としては、
- 加盟開発のトークスクリプト
- 売上予測・損益モデルの作り方
- 24時間営業やドミナント出店の方針
などを作成・見直す際に、ガイドラインの考え方を社内ルール・マニュアルに落とし込むことが求められます。
まとめ:法令理解は「失敗しないフランチャイズ」の第一歩
これからフランチャイズビジネスに関わるみなさんに、最後にお伝えしたいのは、
「法律を知ることは、リスク回避だけでなく、良いパートナーを選ぶための武器になる」
ということです。
- 中小小売商業振興法
→ 「どこまで本部が情報を開示してくれるべきか」の物差し - フランチャイズ・ガイドライン
→ 「本部の要求が行き過ぎていないか」を判断する物差し
この2つの物差しを持っていれば、甘い言葉だけを並べる“危ない本部”を見抜きやすくなり、誠実に情報開示し、加盟者と「共同事業」を本気で目指している本部を選びやすくなります。
フランチャイズは、本部と加盟者がそれぞれ独立した事業者として、契約に基づき共同事業を行う仕組みです。
だからこそ、
- 加盟希望者は「契約書と開示書面を読み込む力」
- 本部は「法律・ガイドラインを実務に落とし込む力」
を身につけることで、お互いが納得してスタートできるフランチャイズ関係を築くことができます。
これからフランチャイズに関わるみなさんは、ぜひ一度、中小小売商業振興法の第11条とフランチャイズ・ガイドラインの原文にも目を通してみてください。条文そのものに触れることで、今日お話しした内容が、より立体的に理解できるはずです。







