フランチャイズ本部におけるDX(IT)戦略 〜加盟者へのコスト負担はどうする?〜

フランチャイズとDX

近年、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉を、テレビや新聞、ネット記事などで当たり前のように見かけるようになりました。フランチャイズビジネスにおいてもDXへ取り組みは重要なものとなっており、もはや必須と言っても良い状態となっています。

DXとは

DXとは「新たなデジタル技術を活用し、これまでにないビジネスモデルを創出・柔軟に改変すること」であり、その目的は以下のように2つあります。

①コーポレートIT(CIT):業務効率化や合理化によるビジネスへの貢献
②ビジネスIT(BIT):デジタルによるビジネス創出、価値向上

①は、これまでも取り組まれてきたものですが、必ずしも十分なものではありませんでした。古いシステムのまま運用を続けている企業も多数あり、新たなデジタル技術を用いて、自動化、業務効率化、安定運用を目指していく必要があります。
②は、デジタル技術を活用した新たなビジネスの創出、価値の向上をしていくものです。

フランチャイズ本部におけるDXへの取り組み

フランチャイズ本部のDX戦略としては、この①、②を意識して、戦略を立て実行していく必要があります。

①は既存事業の延長として、ビジネスの効率化・合理化を図り、収益性を向上させていくことを目的とします。
一方、②は、新たなビジネスの創出を目的とします。
この事例として、Uber Eats(ウーバーイーツ)が挙げられます。これは、従来のデリバリービジネスを単にデジタル化したのではなく、新しいデジタル技術(この場合、クラウド、ソーシャル、ビッグデータ、モバイル等)をフル活用し、新たに料理のデリバリー事業を始めたい飲食店と、お金を稼ぎたい一般人(配達パートナー)をつなげるという、新しいビジネスモデルを作り上げました。さらに、Uber Eatsの仕組みを活用した「ゴーストレストラン」という業態も生まれ、このフランチャイズモデルも生まれています。

ウーバーイーツ

「ITを活用して、ビジネス競争力向上を目指す」ことを目的に、独立行政法人 中小企業基盤整備機構が「IT戦略ナビ」というもの運営しています。このサービスを利用すると、IT戦略マップというものが作成できます。これは、「どのようにITを活用したら、ビジネスが成功するか?」というストーリーを1枚の絵にまとめたものです。いくつかの質問に答えていくことで、自社の戦略の実現や課題の解決につながるITソリューションと、その具体的なITサービス(アプリ)を案内してくれます。まずは、このようなサービスを使ってみるところから始めてみても良いでしょう。

フランチャイズ本部におけるITの導入方法

ITは、まず直営店において最低限必要なシステムと、本部と店舗を結ぶシステムを構築し、本部の発展段階に応じて必要なものを構築することが現実的なステップです。

ITの導入方法として、大きくは「オンプレミス」と「クラウド」に分けることができます。

フランチャイズとIT導入

オンプレミスとは、自社開発・自社運用とも呼ばれ、IT(サーバーやソフトウェアなど)を、フランチャイズ本部(企業)が管理する施設内に設置し、運用することを指します。
一方、クラウドの場合、企業が使用する情報システムを、拡張可能な仮想環境にて提供します。通常、利用者は必要な分だけの料金を支払うことになります。また、事業の拡大に合わせて、サーバーやサービスの拡大を柔軟に行うことができます。ITに関わるトータルコストを抑えつつ、効率的なIT運用を行うことができます。但し、クラウドの採用に当たっては、次のような点に注意する必要があります。

  • 企業(本部)の独自機能が必要な場合、対応ができない可能性がある。この対応をするためのカスタマイズが必要となると、その分のコストが大幅にかかる場合があり、自社開発との比較検討を行うこと。
  • 利用者数の増加に伴い、ランニングコスト(利用料)が大幅に増加する可能性がある。将来の拡大計画も検討すること。
  • 取り扱う情報の取扱いをクラウド事業者に委ねることになる。その可否を判断すること。
  • 情報の流通経路全般にわたるセキュリティが適切に確保されるのか確認が必要。そのためにも、自社にてセキュリティ要件を定めること。
  • 海外のクラウド事業者によるサービス提供の場合、国内法以外の法令が適用されるリスクを評価すること。
  • クラウドサービスの中断や終了の可能性がある。その場合、円滑に業務を移行するための対策を事前検討しておくこと。

オンプレミスの場合、開発時だけでなく、保守・運用にもコストがかかることも考慮しておかなければいけません。コストを抑えたいのであれば、既存のクラウドサービスに業務を合わせ、フランチャイズ・チェーンとして決して譲れない部分のみ、ごく限られたカスタマイズを行う方法もあります。

「オンプレミス」とするか「クラウド」とするか、自社に適した方法を調査・検討をしましょう。

IT構築のステップ

自社独自のITを構築する場合のステップについて解説します。

ITを構築する際に最も重要なことは、ITにどのような目的を持たせるかを明確にし、それに沿ったシステムを構築することです。そのためには、システムを構築する時に以下のポイントを「システム要件」として整理します。

  1. そのシステムを構築する目的
  2. 現状の仕組み・システムが抱える課題
  3. システム構築で実現したい姿(目標、あるべき姿、機能要件)
  4. 運用を開始したい時期
  5. この実現にかけられる費用

これらのポイントが整理できれば、システム会社へRFP(提案依頼書)を提示したり、既存のパッケージソフトの機能で要件をまかなえるのかを確認したりすることが可能になります。また、c、d、eの優先度と、cの中の要件の重要度を予め決めておくと、決定の際の判断が容易になります。

IT化の費用負担はどうする?フランチャイズ加盟者への対応方法

本部によるIT化の促進は、加盟者の経営にとって良い取り組みではありますが、情報システムの開発・導入には、当然コストがかかります。本部として、このコスト負担をどのように考えるかということになります。
新たなIT導入は、加盟者の経営にプラスに働くものですし、チェーンとしての統一性、サービス品質の担保という観点からも、原則、全ての加盟店に導入すべきものです。しかし、その費用が掛かるとなれば、加盟店から難色が示されることは十分に予測できますし、それは契約にはないことだと反発する加盟者も現れるでしょう。

本部の対応としては、SVやIT責任者などを通じて、導入目的やその効果などについて、加盟者ごとの収益状況や初期投資の回収状況などを考慮しつつ、丁寧に説明をしながら進める必要があります。これには時間がかかりますから、計画的な対応が必要となります。

加盟店との契約時点においては、将来、新たに発生するかもしれない費用負担についても想定し、契約書の準備と契約行為をする必要もあります。フランチャイズ契約書上には、以下のようなことを定めておきます。

  • 加盟者は、情報システムの変更、バージョンアップ、ハードウェアの変更等により使用料が変更されることを認容すること
  • チェーン全体の方針として、情報システムの内容、仕様、使用機器が変更される場合、加盟者の費用負担で、新たな情報システムを導入すること

また、契約前には「将来、新たなコスト発生することがある」ことを示した「リスク確認書」を提示し、承諾を得ておくというのも契約上のテクニックです。

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