『のれん分け』と『フランチャイズ』との違いは?トラブル防止・成功のポイントを解説

のれん分け

日本には昔から「のれん分け」という独立制度があります。長年、その会社で働いてくれた従業員に対して「のれん(暖簾)=屋号」を使って独立することを認めるものです。一方、「フランチャイズ」の歴史はで米国で始まったと言われており、日本でフランチャイズが導入されたのは1963年のダスキンと不二家が最初と言われています。
では、「フランチャイズ」と「のれん分け」との違いはどのようなものでしょうか?

フランチャイズ・ビジネスとは?

フランチャイズ・ビジネスとは?
ということについては、過去のコラムでも解説してきましたが、改めてそのポイントを解説します。

フランチャイズ・ビジネスにおいて、FC本部と加盟者は、それぞれが独立した事業体であり、FC契約によって結ばれたビジネスパートナーの関係であるということが大前提になります。そして、加盟者は、その企業(FC本部)で働いていたかどうかは関係ありません。
加盟者は、その事業を行うために必要な事業資金を自ら投入します。当然ながら、その事業成否は、それぞれの事業体の責任になります。
FC本部から加盟者に対してはフランチャイズパッケージが提供されます。加盟者は提供されたフランチャイズパッケージの見返りとして、本部に対価(加盟金やロイヤルティ)を支払うことになります。
フランチャイズパッケージとは、「商標の継続的使用の許可」「経営ノウハウの提供」「継続的な経営・運営指導」などが含まれており、一連のビジネス展開に必要なものとして、標準化されたパッケージとして包括的かつ体系的に提供されます。

フランチャイズ・ビジネスのポイントを要約すると、以下の3点になります。

  1. FC本部と加盟者は各々独立した事業体であり契約に基づく共同事業を行なうビジネスパートナーの関係
  2. FC本部から加盟者に対して標準的なフランチャイズパッケージが提供される
  3. 加盟者は事業資金を投入し、かつフランチャイズパッケージの見返りとしてFC本部に対して一定の対価を支払う

フランチャイズビジネス

のれん分け制度は大きく2つのパターンに分けられる

「フランチャイズ・ビジネス」では、その業界における経験やノウハウがなくとも最短で成功できるように、加盟者は事業の仕組み=フランチャイズパッケージを買います(加盟金・ロイヤルティ)。FC本部と加盟者は契約に基づいたビジネスパートナーの関係であり、加盟者は、その企業(FC本部)で働いていたかどうかは関係ありません。
一方で「のれん分け」は、古くから日本にある独立制度で、長年働いてくれた奉公人などに対して暖簾(のれん)を使って商売をすることを認めるものです。そして、のれん分け制度を雇用のパターンから「インセンティブ型(キャリアプラン型)」「加盟前提型(ステップ型)」の2つに分類することができます。以下に、その概要を解説します。

インセンティブ型(キャリアプラン型)

インセンティブ型(キャリアプラン型)は、従来の「のれん分け」に近い形態です。主には正社員向けのキャリアパスの一つとして会社(本部)が従業員の独立を支援するもので、その企業で頑張ってきた従業員に対するインセンティブの意味合いが強いものとなります。本部による貸付制度の設定、加盟者が銀行からの借入をする際の本部による保証、加盟金やロイヤルティの免除や減額、といった独立に向けた金銭的支援を行うケースも多くあります。そのため、本部としては、一般的なフランチャイズ事業に比べると財務的メリットが減ることもあります。
また、独立者に対して直営店を譲渡するケースもありますが、この場合、譲渡店舗の選定基準が難しくなります。収益が良い店舗を譲渡してしまうと、当然、本部としての収益力が落ちてしまいます。逆に、収益が悪い店舗を譲渡する場合には、独立者にとって制度としての魅力が無くなります。店舗の収益力を「良い」「普通」「悪い」で分けた場合、一般的には、「良い」は本部が直営店として継続、「普通」を独立者へ譲渡し、独立事業者として頑張ることで「普通」→「良い」店舗へと変革させていくという方針を取ります。実際、独立を認めて店舗を任せたら、同じ店舗なのに業績が向上したケースは多数あります。

加盟前提型(ステップ型)

次に、加盟前提型(ステップ型)ですが、これは、フランチャイズ加盟(=独立)を前提として、独立前に一時的に労働契約をして独立を目指すという制度です。
この制度として有名なものが、「カレーハウス CoCo壱番屋」を展開している(株)壱番屋のブルームシステムです。これは、まさしく現代版のれん分け制度と言えるものです。
CoCo壱番屋に加盟したいと思ってもすぐには自分のお店を持つことはできません。いったん(株)壱番屋へ入社をし、複数の店舗勤務を通じて経営者として必要な店舗経営力を身につける必要があります。
ブルームシステムには9つの等級制度があり、経営者として必要な店舗経営力が身についたと認められることで独立の資格が得られます。独立資格を得るのは3等級以上で、入社から5~6年での独立が多いようです。また、3等級以上を獲得できず(=独立条件をクリアできず)、独立を諦める人も多くいるようで、実際に独立オーナーになるのは1割未満のようです。
壱番屋の独立支援制度は狭き門となっていますが、だからこそ失敗する店舗は少ないようで、直近10年間(2019.9現在)における独立オーナーの経営継続率は約92%になるようです。業界最大手のカレーチェーンを築くことができた最大の理由が、ブルームシステムの存在といっても過言ではないでしょう。

 ※(株)壱番屋のHPより

のれん分け制度の導入でトラブルを起こさないために

のれん分け制度を導入している企業において本部と独立者との間でトラブルが発生し、最悪のケースとして訴訟問題にまで発展したというようなことを聞きます。トラブルが起きる大きな原因は、「その企業にあった最適な制度設計・運用をしていない」「独立者との適切な契約と結んでいない」ということにあります。
「あいつは、うちで長く働いてきた社員だ。俺がかわいがってきた弟子みたいなものだ。俺の言うことは何でも聞く。大丈夫だ」
などと思ってはいけません。
のれん分け制度で独立した人あっても、独立した以上は一人(1社)の事業者です。元従業員でも、事業者として本部と対等な立場になることを忘れてはいけません。独立前は社員であっても、独立後は経営パートナーです。
本部と独立事業者(加盟者)という双方の立場の中で、互いの言い分に食い違いが出てくるのは自然なことです。そのことを念頭に置き、本部と独立者の関係がより深くなるような、その企業にあった最適な制度設計と運用をする必要があります。また、制度の内容について、口約束ではなく、きちんと契約書を交わしておく必要があります。

のれん分け制度に決まった形はありませんが、制度設計をする際には、次のようなポイントについて考える必要があります。

  1. 同じのれん(看板・ブランド)を使わせるか(商標使用許諾)
  2. マニュアルなどの提供はするか(ノウハウの提供、秘密情報の保護)
  3. 開業店舗の開発を支援するか(物件紹介、立地診断、マーケティング、店舗デザイン・設計・施工)
  4. 開業のサポート(開業プロデュース)はどこまでするか(資金調達、許認可取得、什器類の指定・調達)
  5. 開業後の運営支援はするか(経営指導、人材派遣・紹介、人材教育)
  6. 商品や原材料の提供はするか・本部からの仕入れは必須か(商品取引)

そして、のれん分け契約を結ぶに当たり「契約書」の作成は必須です。契約書を作成せずに口約束でのれん分けを実施したり、ネット上にアップされているひな形を少し変えただけで対応したりすれば、双方の認識の違いにより、様々なトラブルが生じる可能性が増えます。

のれん分け契約書の記載事項の例

最後に、のれん分け契約の記載事項の例をまとめました。参考にしてください。

  • のれん分け(権利)の付与
  • 運営責任の所在
  • 独立事業の原則
  • 標章等の使用
  • 守秘義務
  • 競業の禁止
  • 加盟金
  • ロイヤルティ
  • テリトリー権と営業地域
  • 販促物等
  • 保険加入
  • マニュアルの貸与
  • 店舗運営
  • 従業員の雇用
  • 提供品目の指定
  • 提供価格
  • 定休日・営業時間
  • 食材、物品等の仕入
  • コンプライアンスの遵守
  • 顧客情報の管理
  • 本部による経営指導
  • 独立者の経営責任と第三者に対する責任
  • 事業の譲渡
  • 契約期間
  • 中途解約
  • 本部による契約の解除
  • 契約終了後の競業禁止

のれん分け制度には、フランチャイズ事業とは異なった特徴があり、本部としては注意すべきポイントが多数あります。制度設計や、その制度の内容と契約書の細部を合致させるのは専門的な知識を必要とします。

参考書籍:フランチャイズ研究会 著「飲食店「のれん分け・FC化」ハンドブック」(同友館)

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